アルツハイマーという疾患
アルツハイマー病(AD)は加齢に伴う神経認知障害であり、脳の神経細胞が徐々に変性する進行性の疾患です。
高齢者集団で主に見られ、記憶力の低下や認知機能の低下が特徴です。
アルツハイマー病患者の脳では、疾患症状が発症する前に、脳の神経細胞内にアミロイドβと呼ばれるタンパク質の蓄積が生じることが知られていますが、疾患の原因や症状発症の要因は完全には解明されていません。
厚生労働省公表した「令和2年(2020)患者調査」では、継続的に医療を受けているアルツハイマー病(AD)の患者数は、推定79万4000人と報告されており、患者数の多い疾患です。
アルツハイマー治療の限界
薬理学的介入は限られており、この薬を服用すれば、疾患の進行を遅らせ、予防し、治癒できると言える可能性は低いです。
アルツハイマー病の病態そのものの進行に変化を与えるものではなく、人によって有効な場合もそうでない場合もあり、また、限られた期間のみしか効かない場合もありますし、
最近承認された新薬においても、治療効果が強いわけでは決してなく、薬を服用すれば病気が治ると言うのは難しいのが現状です。
これは、アルツハイマー病は複雑な病気であり、何かひとつの介入によって治療するのが難しいためと考えられます。
このような背景から、アルツハイマー病の神経病理学的影響に対する回復力を促進する、予防可能または修正可能な潜在的因子を特定することが強く求められれています。
言語使用による予防?
「料理をしている人はボケない」と、聞いたことがある方もいるかと思います。
これは、アルツハイマー病などの認知症が脳に由来する疾患のため、脳を使う料理をテキパキとこなしていると、認知症予防効果があるのでは、というイメージからきていると思われます。
実際に、2カ国語以上の言語を日常的に使用することは、アルツハイマー病に対して前向きな影響要因のひとつであり、脳内で複数の言語を管理することによって、認知機能を高める可能性があります。
また、バイリンガリズムが、特に前頭葉などの脳内ネットワークにおいて、脳の予備能や維持能の増加と関連するという報告もあります。
第二言語の使用とアルツハイマー病の関係性
二言語/多言語使用とアルツハイマー病に関する文献報告(J Alzheimers Dis, 2023;95(2):363-377)を紹介します。
この文献報告で対象とした研究では、第二言語開始年齢、言語能力、言語使用状況、アルツハイマー病の発症率や症状発現年齢などをデータセットとして評価しています。
この疾患領域の宿命ですが、評価データは個人差が大きく、ばらつきがあるデータとなりましたが、それにも関わらず、ほとんどの発表では、前頭葉-実行機能の増加がアルツハイマー病の神経病理学的発達を補い、それによって認知症の臨床症状の出現を約4-5年遅らせることを支持しています。
複数の言語を常用的に話すことがADの神経病理を予防するわけではないが、臨床症状の発現を遅延することが分かり、また、臨床症状発現の遅延は、アルツハイマー病の生涯罹患率に潜在的に大きな影響を与える可能性があり、アルツハイマー病の症状で苦しむ患者さんを減らすことができるかもしれません。
第二言語を学ぶと、アルツハイマー病の臨床症状を遅らせやすくなるかもしれません!